大判例

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東京高等裁判所 昭和32年(う)1442号 判決

被告人 橋場喜久雄

〔抄 録〕

控訴趣意第一点及び第五点について。

所論は、原判決は、被告人橋場は、自己の利益を図り、かつ債権者を害する目的を以て、同年(昭和二十九年)七月初旬頃判示株式会社の破産財団に属する財産たるビーエスモーター三一型四台及び同四一型十五台(価格合計二一五、〇〇〇円位)並びに法律の規定により作るべき商業帳簿数冊を同会社(千葉市要町所在)から、千葉県夷隅郡大原町へ運搬し、以てそれぞれこれを隠匿したものである、という詐欺破産の事実を認定しているが、その挙示する全証拠を検討するも、被告人が判示モーターや商業帳簿を大原町へ運搬したことが、同被告人の利益を図り、かつ債権者を害する目的を以て為されたという証拠は、どこにも見当らないから、原判決は、証拠に基かないで事実を認定した違法をおかしたか、又は事実を誤認したものである、と云うのである。然し、原判決が証拠として引用する被告人橋場に対する原審第三回公判調書中の同被告人の供述記載及び同人に対する検察官作成の昭和三十一年五月二十四日附供述調書によれば、判示株式会社は判示犯行当時既に債務超過の状態にあつたことが認められるから、同会社は既にこの時に於て破産原因があつたものと云わなければならないのみならず、更に当審が事実の取調としてした証人藪田和男の供述を参酌して原判決引用の原審第二回公判調書中同証人の供述記載を綜合して考察すれば、同被告人は、自己が代表する判示株式会社の右難局を収拾するため、債権者たるブリジストンタイヤ株式会社の代理人であつた同証人と会合し、債務の支払の見透し等につき協議が成立するまでの間、判示タイヤ等在庫品を他に移動しないことを誓約したに拘らず、その破棄を宥恕すべき理由もなく、単なる自己会社の経営方針の変更により、これに違背して、その数日後である判示日時頃、判示犯行に及んだものであることが、認められるから、同被告人の右所為は、自己会社の利益を図る目的を以て為されたものである、と云わなければならない。そこで、かかる所為が、他面債権者を害する目的を以て為されたものと、云い得るかどうかの点について按ずるに、本犯罪の構成要件たる債権者を害する目的とは、単に行為の効果の発生を知つていたと云うだけでは足りないが、その目的は終局的又は唯一であることは必要なことではなく、行為者の意思がその結果の発生に向けられて居れば、足るものと解すべきであるから、前叙の如く、破産状態に瀕した情況下に於て、前記債権者会社との誓約に違反して、自己会社の利益を図る目的を以て、為されたる被告人の本件所為は、同時に、債権者を害する目的をも以て為されたものと云わなければならない。果して然らば、原判決には、この点に関し、所論の如く、証拠によらないで事実を認定した違法はなく、なお所論にかんがみ、記録を検討してみても、右事実の認定に何等の過誤あるを発見できないから、論旨は総べて理由がない。

(中西 山田 石井)

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